玉音放送(現代語訳ver.)

(※従来の置き場所がサービス終了しましたので、こちらに移設しました。訳文への要修正点などありましたら訳者までご一報をお願いします 2018.8.15記)

 

=============(玉音放送 現代語訳ここから)==============

昭和二十年八月十五日

大東亜戦争終結に関する詔書 

 私、天皇は、世界情勢とわが帝国の現状とを深く鑑み、非常の措置をもってこの時局を収拾すべきと考え、ここに忠実かつ善良な臣民に申し伝える。

 私は本日ここに、帝国政府に対して、米、英、中、ソの4カ国からの共同宣言(ポツダム宣言)を受諾する、と通告するよう下命した。

 

 そもそも代々天皇家は、帝国臣民の平穏無事を図って世界繁栄の喜びを共有することを片時も忘れず願ってきた歴史があり、それは私自身も常々大切にしてきたことである。先に米英2国に対して開戦した理由も、本来は帝国の自立と東アジア諸国の安定を望み願う思いからであって、他国の主権を排除して領土を侵すようなことは、もとから私の望むところではない。

 ところが交戦はもう四年を経て、わが陸海将兵の勇敢な戦いも、わが多くの公職者の奮励努力も、そしてわが一億臣民の無私の尽力も、それぞれ最善を尽くしたにもかかわらず、戦局は必ずしも好転せず、世界情勢もまたわが国にとって極めて不利な状況となっている。それどころか、敵は新たに残虐な爆弾(訳者注:原子爆弾)を使用して、膨大な数の無実の人々までをも殺傷しており、惨澹たる被害がどこまで及ぶのか全く予測できないまでに至ってしまった。 

 ことここに至ってまだ戦争を継続しようとすれば、最終的にはわが民族の滅亡を招くだけでなく、ひいては人類の文明をも破滅しかねないであろう。このようなことでは、私は一体どうやって多くの愛すべき臣民を守り、代々の天皇の御霊に謝罪したらよいというのか。これこそが、私が帝国政府に対し共同宣言を受諾するよう下命するに至った理由である。

 

 私は、帝国とともに終始東アジア諸国の解放に協力してくれた同盟諸国に対し、遺憾の意を表さざるをえない。そして前線で戦死した者、公務にて殉職した者、戦災に倒れた者、さらにはその遺族の気持ちに想いを馳せると、わが身を引き裂かれる思いである。また戦傷を負い、災禍を被って家財や職業を失った人々の再起については、深く心を痛めている。

 何よりこれから先、帝国の受ける苦難はきっと並大抵のことではなかろうと思う。
 あなたがた臣民の本心も私はよく理解している。

 しかしながら私は、時の巡り合せに逆らわず、耐えがたき思いに耐え、忍びがたき思いを忍んで、未来のために平和な世界を切り開こうと願い続ける。

 もしもこのまま国の形を維持し続けることができたとしたら、私は善良なあなたがた臣民の真心を拠所として、常にあなたがた臣民のそばにいるだろう。

 誰かが感情の高ぶりから無闇に事件を起こしたり、同胞同士がいがみ合い、時勢を混乱させ、そのために進むべき正しい道を誤って世界から信頼を失うようなことは、私が最も強く心配するところである。
 ぜひとも国を挙げてひとつの家族のように団結し、誇るべき自国の不滅を確信してほしい。

 責任は重く、かつ復興への道のりは遠い。そのことを覚悟し、総力を将来の建設に傾け、正しい道を常に忘れずその心を堅持し、誓って国のあるべき姿の真髄を発揚し、世界の流れに遅れを取らぬよう決意しなければならない。
 あなたがた臣民は、ぜひともこれら私の決意をよく理解して行動してほしい。

 

裕仁
昭和二十年八月十四日

 

=============(玉音放送 現代語訳ここまで)==============

 

【参考サイト】
玉音放送 - Wikipedia  (wiki)
終戦の詔勅 (玉音放送) - YouTube  (youtube)
http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/taisenkankei/syusen/pdf/syousyo.pdf (宮内庁サイトの原文pdf)
http://www.geocities.jp/taizoota/Essay/gyokuon/gyokuon.html (原文および口語訳参照)

『楽園追放』(水島精二監督、虚淵玄脚本・2014)考察メモ(再掲)

この一連の感想・考察メモは2014年11月に劇場で観劇したあとにとったものです。

今回、地上波で初公開されたとのことなので、一部加筆修正して再掲します。

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楽園追放 -Expelled from Paradise-』を観てきた感想メモをザッとまとめておきます。ネタバレを多数含みますので、未視聴の方は閲読を控えたほうがよいと思います。傑作ですので、ぜひ観てみてください。私はBlu-ray、買います。


◎この作品を見終えて、まず最初に浮かんだのは脳科学者である池谷裕二さんの「機械が人間のようになることを恐れる人は多いけれど、本当に恐れるべきは、人間が機械のようになってしまうことではないか」という言葉でした。


◎「ディーバ=楽園」は「インターネット空間」のオマージュなのですね。「そこ」では肉体の枷から解放され個人の新たな可能性が拡大するけれども、「外」とは違った周囲からの監視や評価からは拘束され続けることになると。


◎作中に登場する「ディーバ」は完全管理社会として描かれていますが、そうした社会にとって最も明確な障害となるのは「肉体」と描写されているのが興味深いです。風邪をひいたり足をくじいたり死んだり。


◎「自由とは何か」という問いが切実な響きを伴うのは、その先に「人間とは何か」、「何のために存在しているのか」があるのですね。


グレッグ・イーガンの『ディアスポラ』に『攻殻機動隊』と『翠星のガルガンティア』を掛け合わせたような作品でした。


◎ラストは『PSYCHO-PASS サイコパス』(第1期2012年10月11日 - 2013年3月21日)と同じ手法でしたね。


◎「人格」データの「コピー(&ペースト)」という概念が登場しなかったのが気になりました。「私」をデータ化する最大の利点であり、また「私とは何か(唯一性の喪失)」を考える重要な要素だと思うのだけど(たとえば『攻殻機動隊』のような)。尺の関係だろうか。


◎主役の二人が「フロンティアセッター」に対して「お前はもはや人間だ」と判断する要素が「好き(愛情)」、「面白い(好奇心)」、そして「仁義(互酬性)」という3つの感情を理解して実践できていることだった、というのが興味深い。人が他者を「人間である」と判断する要素は何か、という話でもあります。


◎「他者から不合理な施しを受けると、それへの不合理な返礼を施すべきだと考える(=互酬性)」。このまとめは分かりやすいなー。


◎「フロンティアセッター」という名称。


◎「ディンゴ」って、あの西部劇の…(『ジャンゴ』でした)。


◎「ジェネシスアーク号の建設に関する進行管理アプリケーションに付随する、自立最適化プログラムです」→何万回目かの自己診断アップデートのさい、「私」という概念が出現した。この「私」の創出の仕方もわかりやすくていいなー。


◎アンジェラの年齢のズレとデータ化の副作用(出生した時期で言えばアンジェラはディンゴより年上かもしれない)。

 

◎お尻が。


◎主人公の二人は「自分にしかできない仕事」にこだわりを見せていました。それはおそらく「仕事(使命と言い換えても良い)」が「私」とは何かを考えるキッカケとなるからではないか。少なくともアンジェラは「仕事」を通して「私」という自意識を獲得したように見えます。


◎人間とは何か、という問いを、哲学者とは違った形で、私たちに親しみやすく考え続けたのはSF作家達でした。手塚治虫石ノ森章太郎松本零士らは、例えば鉄腕アトムで、サイボーグ009で、銀河鉄道999で、ときには人間のような機械が、あるいは機械のような人間が、繰り返し繰り返し、人間とは何か、どこから来てどこへ行くのか、そして何よりいかにして生きるべきかを問い続けてきました。そうした意味では、この『楽園追放』という作品は、手塚や石ノ森や松本といった、偉大な先達の正統な後継者と言えるでしょう。

 

◎いやー面白かった。以上。

【ネタバレ】『この世界の片隅に』を観て泣きながらとった感想メモ

※あらすじ等は書きませんので他サイトをご参照ください。 

※観て感じたこと、気づいたことをズラズラと書き連ねたものです。

※なので多くのネタバレを含みます。くれぐれも、観劇前に読むことをお勧めしません。すぐブラウザを閉じましょう。

 

※「知らんでええことかどうかは、知ってしまうまで判らんのかね」(『この世界の片隅に 中』より)

※判らんですよ。だから自分で背負っていくしかないのです。

 

※そんなわけでネタバレ感想メモです。

 

【『この世界の片隅に片渕須直監督•2016年・原作こうの史代を観ての感想】

・冒頭、礼儀正しくて働き者の可愛い女の子がお使いに……って「つかみ」として完璧すぎませんか!

・「すずさんが描く絵」が美しく動き出し、アンリアルとリアリティが溶け出し、ゆっくりと作品の中に入っていく感じがしました。

・兄に手紙を出すシーン、名前を書くところがゆっくり描写されるのは「姓」が変わったこと(浦野→北條)をすずさんが初めて実感する場面だからなんですね。

・それでも住所を忘れるところが可愛いし、「住所も知らないところに嫁に来た」というすずさんの性格と環境を描写しているわけです。

・「さん」付けで呼び合う夫婦ってやっぱり最高に萌えるなー。

 

・要所要所で表示される日付。私たちは誰もが、昭和20年8月6日に広島で何が起こったか知っている。それはサスペンス作品が醸し出す「これから確実に何かが起こる」という緊張感と似たものだし、多くの大河ドラマや、もっと言えば『あまちゃん』で2011年3月11日を迎える気持ちと似た感情でもあったと思う。

・「確実にその時は来る」という気持ち。だからこそその時をどう迎えるかが大事になるというドラマツルギー

・なおこの「日付」は、『ユリイカ2016年11月号 こうの史代特集』「『漫画アクション』の片隅に(細馬宏通)」という批評によれば、隔週誌(漫画アクション)掲載時には「平成」と「昭和」が一部揃うよう入念に計算されていたそう(たとえば原稿の冒頭に「20年6月」とある場合、作品内は昭和20年6月だしその雑誌の掲載日は平成20年6月だったと)。

 

・どういう才能なんだこうの史代先生…。。。

 

・タイムラインで本作を作家が軒並み絶賛していたのですが、なるほど。本作は掛け値なく面白く、美しい物語だというだけでなく、作家なら誰でも、「もし突然描けなくなったら自分はどうなるのだろう」と考えたことがあるはずで、(描けなくなったとしても)「それでも生きていく姿」が本作には当たり前に、そしてこれ以上ないほど美しく描かれているからなんですね。

 

・驚嘆せざるをえない圧倒的なのん(能年玲奈)さんの演技力。

・化け物か。

・観たあとに原作を読んだらすずさんのセリフがのんさんの声で響きました。

 

・終戦時、すずさんは20歳

・20歳!?!?!????

・周囲がだんだん異常な状況になっていく。その時の日常を担保するすずさんの性格。

・日常を緻密に描くことで非日常の非日常性が、物語の物語性が際立つ。日常が、圧倒的な日常が胸に迫る。

・「生きてゆく」がテーマだからこそ、食事と性をちゃんと描くわけですね。

・わかる人にだけわかる描写がある。初夜の合言葉、遊郭、妹さんのアザ。

・特に遊郭は、いい匂い、よそ者ばかり、ここから出ない、と特有の世界観「だけ」が描かれる。

 

・空襲が本格化し、日常が歪み、人間が歪み、自分が歪んでゆくことを、背景を歪ませることで描写している。

 

玉音放送を聴いて納得がいかない、と叫ぶすずさん。最初は、悔しいんだろうなと思ったんですね。まだ戦争を続けてほしかったんだろうなと。だって「ここに5人残っている。まだ左手も両足もある」と言うし(しかしこれすごいセリフでしたね。震えた)。戦争って止めるより続けるほうが簡単なんだろうなと思うので。戦争が日常になると、その日常を守ろうとするのかなと。

 

・でもちょっと違った。というより、それだけじゃなかった。すずさんは怒っていたんですね。あの場にいた誰よりも怒っていた。

 

・本作は怒るシーンがカギなのだなと。怒らないすずさんが怒るからこそそのシーンが印象的に響く。

・すずさんが怒るシーンは3つ。北條家に嫁いだことが不幸であり連れ出してほしいと思っているに違いないと決めて自分に迫ってくる水原哲に納屋で。余計な気を回して水原に自分を差し出した周作に汽車で。そして玉音放送に。

 

・自分から絵を取り上げ、右手を取り上げ、姪を取り上げ、父と母と兄を取り上げ、故郷を取り上げ、最後の一人まで戦えと言ったのはお前たちだろうと。

・いや「お前たち」だけではない、その暴力の中に自分も列しているのだと知ってしまったから。

 

・時限爆弾が炸裂した瞬間に暗転する世界、明滅する景色。観客はふと、これまで観てきた美しい風景、優しい人物描写は、すずさんが観る視界だったのではないかと思うのではないでしょうか(私はそう感じました)。

 

・映画館からの帰り道にすぐAmazonで原作マンガ版全巻購入。

・すげええええ!! このほのぼのとした絵柄、練りこまれたストーリー、魅力的なキャラクターで、実験小説みたいな表現手法!!

・マンガ版にのみ描かれたエピソード。リンさん、りんどう柄の茶碗、口紅。

・特に軍事訓練のため3ヶ月家をあける周作さんを見送る際、すずさんが紅をひくシーンは劇場版の最も美しい場面のひとつなので、ぜひその口紅にまつわる描写はマンガ版を読んで知ってほしいです。

 

・自分は劇場版→原作マンガ版→ユリイカの特集号購入、という流れです。このあと『夕凪の街、桜の国』を買って読みます。むふふ。

・定期的に差し挟まれる「笑い」の描写は、原作が雑誌連載作品だったからなのかなとも思うし、それが劇場版において構成の緩急と密度を作り出しているのが興味深かったです。

 

・髪型を変えるのは成長と生まれ変わりのメタファーで、この演出手法はもう何百回も見たはずで、『ローマの休日』でも『天空の城ラピュタ』でも、『魔法少女まどか☆マギカ』でも『君の名は。』でも、大事な場面で主人公の女子が髪型を変え、それが「成長」を示していた。しかしそれでもやはり本作は「ここで使うのかー!」という驚きを見せてくれました。感動。

 

・当然の話として、優れた物語は多くの文脈を含んでおり多くの解釈を可能とする。だからこそ、その行間を覗くと覗いた者自身や、見たいものが姿を現わすのだなと、本作が巻き起こしたさまざまな論戦を眺めていて思いました。

・原作マンガ版最終回にある詩に刻まれた「愛はどこにでも宿る」という言葉が素晴らしい。これは人間賛歌ですね。

・そして何度でも、だからと言ってそれがかけがえのないものでないという理由にはならないのだなと実感します。

 

・観終わったあとに多くの観客が気づくのでしょうね。すずさんのように、みんなこの世界の片隅で、自分にとって大切な記憶を抱きしめて生きているのだと。

 

・しかし今年の邦画は本当に次から次へと……すさまじいなあ……。

・これは今年に始まった話ではもちろんないのだけど、優れた物語や優れた体験にとって、インターネットは敵でなくむしろ大いなる味方になるのだということがよくわかった年になったと思いました。

 

・また観ます。素敵な作品を、ありがとうございました。本当に本当に、ありがとう。

 

以上。

 

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〈私訳〉ヒラリー・クリントン敗北宣言スピーチ全文和訳

 自分の英語力向上のためと、一読して「トランプは我々の大統領ではない」と憤ったり、「彼には協力できない」と言っている人にこそ読んで欲しいなと感じて、ふと思い立って全文和訳しました。

 後半はほとんど祈りのような内容だったし、何よりもヒラリー・クリントン自身に語りかけているような言葉で、あぁきっと彼女はこれまでの人生で何度も、傷つき疲れ果ててうずくまる心の中の少女(自分自身)に、こうやって語りかけてきたんだなぁ、と思えるスピーチでした。

 

※英語原文はヒラリー・クリントン公式facebookより引用しました

 

【〈私訳〉ヒラリー・クリントン敗北宣言スピーチ全文和訳】

Last night, I congratulated Donald Trump and offered to work with him on behalf of our country. I hope that he will be a successful president for all Americans.

This is not the outcome we wanted or we worked so hard for, and I’m sorry we did not win this election for the values we share and the vision we hold for our country.

 

 昨夜、わたしはドナルド・トランプ氏にお祝いを申し上げ、祖国のために働いてくださるようお願いしました。彼がすべてのアメリカ人のためのすばらしい大統領になってくれることを願ってやみません。

 今回の選挙結果は、わたしたちが望んでいたものでも、そのために厳しい闘いをくぐり抜けてきたものでもありませんでした。わたしたちが共有する価値観やこの国の未来像をもってしても、今回の選挙戦を勝ち抜けなかったことが残念でなりません。

 

But I feel pride and gratitude for this wonderful campaign that we built together―this vast, diverse, creative, unruly, energized campaign. You represent the best of America, and being your candidate has been one of the greatest honors of my life.

I know how disappointed you feel, because I feel it too. And so do tens of millions of Americans who invested their hopes and dreams in this effort. This is painful, and it will be for a long time. But I want you to remember this: Our campaign was never about one person or even one election. It was about the country we love―and about building an America that’s hopeful, inclusive, and big-hearted.

 

 しかし、わたしたちが共に築き上げてきたこのすばらしい―それは大規模で、多様性にあふれ、創造的で、波乱に満ち、力強い―選挙キャンペーンを、わたしは誇りに思っており、大いなる感謝の念に包まれています。皆さんは最もすばらしいアメリカの姿を体現しており、皆さんの支持を得たことはわたしの生涯を通じて最も名誉なことのひとつとなっています。

 いま皆さんは大変な失望を感じていることでしょう。わかります、わたしも想いは同じだからです。そしてそれは今回の選挙戦に希望や夢を持って臨んだ数百万のアメリカ国民も同様でしょう。この「痛み」は長く続きます。しかしどうか思い出してください。わたしたちが訴えてきたことは、決して誰か1人のためでも、あるいは1回の選挙のためのものでもありません。それはわたしたちが愛するこの国のためであり、希望に満ち、大いなる心と寛容さを持つアメリカを築くためのものだったはずです。

 

We have seen that our nation is more deeply divided than we thought. But I still believe in America―and I always will. And if you do, too, then we must accept this result―and then look to the future.

Donald Trump is going to be our president. We owe him an open mind and the chance to lead.

Our constitutional democracy enshrines the peaceful transfer of power, and we don’t just respect that, we cherish it. It also enshrines other things―the rule of law, the principle that we’re all equal in rights and dignity, and the freedom of worship and expression. We respect and cherish these things too―and we must defend them.

 

 わたしたちは、わたしたちの国家が思っているよりもずっと深く分断されていることを目の当たりにしました。しかしそうであってもわたしはアメリカを信じているし、それはこれからも変わりません。もし皆さんもまたそう信じてくれているのなら、どうかこの結果を受け容れて、未来へと目を向けましょう。

 ドナルド・トランプ氏は、わたしたちの大統領となります。わたしたちは彼に、開かれた心へと導くチャンスを託しました。

 わたしたちの奉じる立憲民主主義は、権力の平和的な移譲を重視しており、わたしたちはそれを尊重し、大切にしています。そしてそれと同じように、法の支配、「誰もが等しい権利と尊厳を持つ」という原則、そして表現と信仰の自由を共有しています。わたしたちはこうしたものを尊重し、護持していかなければならないのです。

 

And let me add: Our constitutional democracy demands our participation, not just every four years, but all the time. So let’s do all we can to keep advancing the causes and values we all hold dear: making our economy work for everyone, not just those at the top; protecting our country and protecting our planet; and breaking down all the barriers that hold anyone back from achieving their dreams.

 

 もう少し付け加えさせてください。わたしたちが奉じる立憲民主主義は、わたしたちに四年おきの選挙ごとではなく、常に政治へ参加することを定めています。そしてだからこそ、わたしたちが尊重する主張や価値観を推し進めるべく、なすべきことを続けていきましょう。一部の最富裕層のためだけでない、あらゆる人々のための経済活動を。わたしたちの国、わたしたちの星を守り維持し続けることを。そして夢を叶えようと努力し続ける人のために障壁を打ち破ることを、続けてゆくのです。

 

We’ve spent a year and a half bringing together millions of people from every corner of our country to say with one voice that we believe that the American Dream is big enough for everyone―for people of all races and religions, for men and women, for immigrants, for LGBT people, and people with disabilities. Our responsibility as citizens is to keep doing our part to build that better, stronger, fairer America we seek. And I know you will. I am so grateful to stand with all of you.

 

 わたしたちは1年半の時を費やして、この国のあらゆる場所から、ひとつの主張とともに数百万の人々を集めてきました。それは、「アメリカン・ドリーム」とはすべての人−あらゆる人種、あらゆる宗教、男、女、移民、LGBT、障害者−に恩寵をもたらすことができる、という信念なのだと。(だからこそ)わたしたちアメリカ市民は、わたしたちが目指す「公平なるアメリカ」を、よりよく、より力強く、推し進めていく責任があるのです。そしてわたしは皆さんがその責任を全うし続けることを信じているし、そうした皆さんと共にここに立っていることを誇りに思います。

 

I want to thank Tim Kaine and Anne Holton for being our partners on this journey. It gives me great hope and comfort to know that Tim will remain on the front-lines of our democracy, representing Virginia in the Senate.

To Barack and Michelle Obama: Our country owes you an enormous debt of gratitude for your graceful, determined leadership, and so do I.

 

 ティム・ケイン、アン・ホールトン、この長い旅路を共に歩んでくれたことにお礼を述べさせてください。ティムを深く知ることができ、その彼が上院でバージニアの代表としてわたしたちが誇る民主主義の最前線に残ってくれることは、わたしにとって大いなる希望と安心をもたらしてくれます。

 バラクとミシェル・オバマ夫妻へ。わたしたちの祖国はあなたたちの上品で決然としたリーダーシップに、それはそれは大きな「借り」を作ってしまいましたね。もちろんそれはわたし自身もです。

 

To Bill, Chelsea, Marc, Charlotte, Aidan, our brothers, and our entire family, my love for you means more than I can ever express.

You crisscrossed this country on my behalf and lifted me up when I needed it most―even 4-month-old Aidan traveling with his mom.

 

  ビル、チェルシー、マーク、シャーロット、エイダン。わたしの兄弟、家族たち。今あなたたちに感じている愛は、表現する言葉を持たないほどです。

 あなたたちはこの国を駆け回って、わたしが必要な時はいつでもわたしを勇気付けてくれましたー生後4ヶ月のエイダンでさえもママと一緒に旅してくれましたね。

 

I will always be grateful to the creative, talented, dedicated men and women at our headquarters in Brooklyn and across our country who poured their hearts into this campaign. For you veterans, this was a campaign after a campaign ― for some of you, this was your first campaign ever. I want each of you to know that you were the best campaign anyone has had.

 

 ブルックリンの選対本部や全米各地でこの選挙運動のために心血を注いでくれた、創造的で才能豊かで、献身的なスタッフの皆さん、わたしは皆さんへの感謝をいつまでも忘れません。かつての選挙運動を経て駆けつけてくれた歴戦のベテランもいれば、今回が初めての選挙運動だった人もいました。あなたがたにはぜひ知っておいてもらいたい。あなたがたはこれ以上望むべくもないほど最高な選挙キャンペーンを展開してくれました。

 

To all the volunteers, community leaders, activists, and union organizers who knocked on doors, talked to neighbors, posted on Facebook―even in secret or in private: Thank you.

To everyone who sent in contributions as small as $5 and kept us going, thank you.

 

 家々のドアを叩き、隣人に語りかけ、Facebookに投稿してくれた−たとえそれが鍵付きの人でも−すべてのボランティアたち、地域リーダー、活動員、労働組合員の皆さんへ、ありがとう。

   献金してくださったすべての皆さんへ、たとえそれが5ドルだったとしても、そのおかげでわたしたちは前へ進むことができました。ありがとう。

 

And to all the young people in particular, I want you to hear this. I’ve spent my entire adult life fighting for what I believe in. I’ve had successes and I’ve had setbacks―sometimes really painful ones. Many of you are at the beginning of your careers. You will have successes and setbacks, too.

 

 そして特にすべての若者たちに、ぜひ伝えたいことがあります。わたしは生涯にわたり、自らが信じるもののために戦ってきました。時に成功を収め、時に挫折を味わい、手酷い痛手に打ちのめされたこともあります。多くの皆さんが、この先ご自身の人生キャリアを積んでいくでしょうし、その先には成功も、また挫折もあるでしょう。

 

This loss hurts. But please, please never stop believing that fighting for what’s right is worth it. It’s always worth it. And we need you keep up these fights now and for the rest of your lives.

 

 今回の敗戦は大きな痛手です。けれどどうか、どうか「正しさのために戦うのは、価値があるんだ」ということを、信じ続けてください。そう、それは常に価値があることなのです。そして今も、この先もずっと、わたしたちはあなたがたが人生を通じて戦い続けることを望みます。

 

To all the women, and especially the young women, who put their faith in this campaign and in me, I want you to know that nothing has made me prouder than to be your champion.

I know that we still have not shattered that highest glass ceiling. But some day someone will―hopefully sooner than we might think right now.

 

 すべての女性、とりわけ今回の選挙キャンペーンとわたしに信頼を置いてくださった若い女性の方々へ、ぜひ知っておいていただきたいのは、皆さんの声を代弁できたことは、これ以上ないほどのわたしの誇りです。

 わたしたちは、いまだあの最も高い「ガラスの天井」を打ち破るに至っていません。それは認めざるを得ない。しかしいつの日か、誰かがきっと、叶うならばわたしたちが考えるよりも早く、成し遂げてくれるでしょう。

 

And to all the little girls watching right now, never doubt that you are valuable and powerful and deserving of every chance and opportunity in the world.

 

 それからこれはすべての少女たちへ。ぜひ聞いてください。あなたたちには価値があり、力強いことを決して疑わないでください。あなたたちはこの世界のどんなチャンスにも、どんな機会にも、挑むことができるのですから。

 

Finally, I am grateful to our country for all it has given me.
I count my blessings every day that I am an American. And I still believe, as deeply as I ever have, that if we stand together and work together, with respect for our differences, strength in our convictions, and love for this nation―our best days are still ahead of us.

You know I believe we are stronger together and will go forward together. And you should never be sorry that you fought for that.

 

 最後に、わたしに多くの恵みを与えてくれた祖国に感謝いたします。

 わたしは自分がアメリカ人であることに、日々感謝の念を噛み締めています。そしてわたしは今も、これまでよりなお、わたしたちが共に立ち、共に働きかけ、互いの違いを尊重しあい、祖国を愛すれば、よりよい明日を築いていけると信じています。

 皆さんご承知のとおり、わたしたちが手を取り合い共に歩めば、より強くなれると信じています。そしてそのために戦ったことを決して後悔しないでください。

 

Scripture tells us: “Let us not grow weary in doing good, for in due season, we shall reap, if we do not lose heart.”

 

 聖書には、「善行を積むに飽くことなかれ。失意に沈むことなく励めば、いずれ時が来て、実りを刈り取ることができるだろう」とあります。

 

My friends, let us have faith in each other. Let us not grow weary. Let us not lose heart. For there are more seasons to come and there is more work to do.

 

 友よ、どうかお互いを信頼しあってください。どうか飽くことなく、どうか失意に沈むことなく。いずれ来たる新たな時のために。そしていずれ来たるなすべき仕事のために。

 

I am incredibly honored and grateful to have had this chance to represent all of you in this consequential election. May God bless you and God bless the United States of America.

 

 この重要な選挙戦で、皆さんの声を代弁する機会を得たことを、このうえなく誇りに思い、感謝しています。どうか皆さんに神の祝福を。そして、アメリカ合衆国に神の祝福を。

 

 

【参照サイト】

ヒラリー・クリントンfacebook公式 全文記事https://www.facebook.com/hillaryclinton/posts/1324421317614394

Twitter公式 

twitter.com

ワシントンポスト紙によるスピーチ書き起こし

「Hillary Clinton's 'painful' concession speech, annotated」

www.washingtonpost.com

 

 

注記/原文を訳してみてああでもないこうでもないと悩んでもたもたしていたら、先人たちが見事な訳文を続々とアップしていましたので、一部参照しました。ありがとうございました。

 

敗戦のクリントン氏が最後に語った最もパワフルな言葉 「若い人に聞いて欲しい」  古田大輔 BuzzFeed

www.buzzfeed.com

 

アメリカ大統領選挙】ヒラリーの敗北宣言スピーチが完璧すぎて、鳥肌がたった。【ざっくり訳つき】

mikachanko.hatenablog.com

 

【全文】ヒラリー氏、敗北演説で若い女性に未来を託す「いつかきっとガラスの天井を打ち破れる」

logmi.jp

 

あべこべな世界で逆立ちすると何が見える? 

Hillary Clinton’s Concession Speech

ヒラリー・クリントン候補の敗北宣言演説

http://tkatsumi06j.tumblr.com/post/152983013871/20161109

【再びネタバレ感想】『君の名は。』2回目視聴し、やっぱり感動したという考察と感想

※初見から40日、やっと2回目を見に行ける時間が取れましたー!

※下記エントリ記事のコメントにてお薦めいただいたTOHOシネマズ新宿の「TCX」というEXTRA LARGE SCREEN(TOHOシネマズ独自規格による巨大スクリーン)と、ボックスシート(通常1800円のところ2700円で座れるラグジュアリーなシート)で視聴しました。最高。TCX最高。

※そんなわけで、以下はあくまで下記エントリの追記です。 

tarareba722.hatenablog.com

 

※しつこいようですが、ネタバレ注意。観劇してから読みましょうね。

 

【そんなわけで以下、『君の名は。』2回目の観劇で気付いたところの追記です】

 

・奥寺先輩がやっぱり最高でした

・17歳時の三葉さんはこれまで布団でしか寝たことがないのでは(だから入れ替わるとベッドからよく落ちる)

・意識して聴いていると、神木隆之介さんの「瀧くん」と「三葉さんが中に入ってる時の瀧くん」、上白石萌音さんの「三葉さん」と「瀧くんが中に入っている時の三葉さん」の、それぞれの細かい演技分けが神がかっている。

・瀧くんは「口噛み酒」がどうやって作られているか知らない。知る機会がない。ただご奉納の時にお祖母さんから「これが三葉の半分」という話だけを聞いている。精製方法を知らないから祠で躊躇なく飲めるし、「片割れどき」で三葉さんに出会った際に、本人に「飲んだ」と照れることなく伝えることができる。また三葉さん本人はそのこと(瀧くんが精製方法を知らないことや、なぜ飲めばまた入れ替わりが発生すると考えたのか)を知らないので、異様に照れる。

 

・奥寺先輩の「やめてたタバコをまた吸う」は失恋の自傷行為という記号なのだろうけど、なんかもうその演出が可愛いすぎて。

・主題歌のひとつ、『前前前世』が劇中使用バージョンとサントラに入っているバージョンでちょっと違う! 劇中使用版は歌詞と、それに一瞬ファルセットが入っており、こちらも大変カッコいいので劇中使用バージョンも発売してください。

 

【以下やや大胆な考察①】

・下記のブログ記事で見かけた「ゲーム的リアリズム」(これは「運命の相手がいる物語」ではなく、「なぜ人は運命の相手はいる、と思い込んでしまうのか、それを説明してくれる物語」)という解説が秀逸だなぁと、二度目の観劇で実感しました。

teramorosu.hatenablog.com

 

・作品が始まってオープニングテーマ曲『夢灯籠』が流れるまで、以下のモノローグが流れる際に、主人公の二人は22歳と25歳の姿をしている(つまりメインの物語の5年後/8年後)。

 

「朝、目が覚めるとなぜか泣いている。そういうことが、時々ある。

見ていたはずの夢はいつも思い出せない。

ただ、ただ何かが消えてしまったという感覚だけが、目覚めてからも長く残る。

ずっと何かを、誰かを探している。

そういう気持ちにとりつかれたのはたぶんあの日から。

あの日。星が降った日。

それはまるで、まるで夢の景色のように。

ただひたすらに、美しい眺めだった」

 

・これは、「二人の精神がたびたび入れ替わって、隕石が落ちて村が全滅する未来を防いだ一連の冒険劇」はすべて丸ごと夢だったのではないか、という示唆にも読める。

・つまり本作中のメイン舞台はすべてカッコ(「 」)に入っている、という解釈もできると。

・ただずっと「この世のどこかに運命の相手がいる」という感覚だけがある(記憶は曖昧)。本作はあくまで「その感覚」を説明できる物語だということだし、その感覚に共鳴できる人にとって本作は響きまくるのだなぁと実感しました。

・しかしちゃんとそう説明できる組み立てをした脚本がすごいなぁと。

 

・TOHOシネマズ新宿の特大スクリーン上映は最高です。

・まあ奥寺先輩のほうが最高だけどな!

 

【以下やや大胆な考察②】

・もし仮に「宮水の力」というものが作中にあったとして、それが「(1200年周期で落ちてくる)隕石による全滅から村を守ることを目的とした能力」だとしたら、なぜ「遠い東京に住む異性と精神だけが入れ替わる」などという、ややこしくて迂遠な発現の仕方をしたのかについて、ちょっと考えた。

・いろいろな要素、要因、伏線や解釈が浮かんだけど、私には「また1200年後に彗星が近づいて隕石が落ちてきた場合、それによる災害を防ぐため」という考え方が一番説得力がありました。

・三葉さん(宮水の女)には(今回の災害を防ぐだけでなく)適性のある相手と出会い、恋に落ち、結婚して子孫を残す必要があったし、つまり「運命の相手と運命的に出会うこと」、それを含めたすべてが「宮水の力」なんじゃないかなぁと考えると、ちょっと壮大で素敵な感じですね。

 

・つまり総合すると、本作のテーマを私は「運命とは何か」(少なくとも「そう感じる現象をどう説明するか」)なのではないかなと読みました。

・「青春」とは、「自分には特別あつらえの人生が待っている」と思える時期だ、と書いたのは三島由紀夫でした。そんなことを思い出しました。

 

以上。

 

TOHOシネマズ新宿 

https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/076/TNPI2000J01.do

『前前前世』のバージョン違いの歌詞解説 

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11164224586

【ネタバレ注意】『君の名は。』を見て溢れ出た感想と考察

※視聴直後にザーッととったメモです。普段はもうちょっと整理して、情報を取捨選択したりくっつけたり引っ張ったりゴリゴリ削ったりしてから一連の考察として日の目にさらすんですが、今回は未整理のまま出します。そうしたほうがいい作品だと思うので。

 

※あとマジでネタバレなしで見たほうが圧倒的に楽しめる作品なので、未見の人は今すぐブラウザを閉じたほうがいいと思います。自分が見るまでほとんどネタバレがなかった我がタイムラインのリテラシーの高さに感動したほどです。

 

※繰り返しますが、ネタバレなしで見たほうがいいですよ。忠告しましたからね。ね。 

 

【以下、『君の名は。』(新海誠監督・2016年)ネタバレしかない考察&感想】

 

・奥寺先輩が控えめにいって最高です。

・冒頭、美しい星空を切り裂き彗星が雲を突き抜けて地上に向かうシーンで始まり、クライマックスでまた落下シーンが描かれます。隕石として落下する彗星は大変な災厄ですが、「それ」がないと主人公の2人は出会わない。このことに運命を感じる仕掛けがニクい。たくさんの星の中から衝突する彗星が展開を暗示してるんですね。切ない。

・1200年周期で地球に近づく彗星は少なくとも3回落ちている。一度目は中心に口噛み酒を祀った祠のあるクレーター(だから祠に彗星の壁画がある≒2400年前でまだ文字が入っていない時代)、二度目が糸守湖を作り、三度目が今回。

・時代的には二度目の彗星落下時に「片割れどき」という方言が生まれたということか。

・冒頭近くの授業シーンで登場する「誰(た)そ彼と われを名問ひそ 九月(ながつき)の 露に濡れつつ 君待つわれを」(『万葉集』 10巻2240番)は女性視点の和歌です。「“あれは誰?”とわたしの名前を聞かないでください。9月の露に濡れながら愛しいあなた(男性)を待つわたしのことを」という内容。

・また万葉集において、上記の歌の次に並べられた歌は「秋の夜の 霧立ちわたりおほほしく 夢にぞ見つる 妹(いも)が姿を(秋の夜に霧が立ちのぼってぼんやりしているような、おぼろげな夢を見ました。愛しいあのひと(女性)の姿を)」です。こちらは男性視点。いろいろ示唆的ですねー。

 

・主人公の2人が直接には出会っていないのに惹かれ合うためには、2人が周囲に愛されている必要があったんですね。入れ替わっているあいだ、2人は周囲の人間や環境を通して、それぞれが「どんな人間か」を深く知っていくわけです。

・時に人は、自分が自分をどう思っているかよりも、人が自分をどう扱うかによって、より直接的に自分を知るものですね。

・主人公の一人、瀧くんが描く絵は「街や風景」ばかりで「人物」は描こうとしません。おそらく彼は街並みや風景が好きで(糸守の美しい風景に見惚れるシーンがある)、就職時に建築会社ばかり狙う(たぶん建築デザイナー志望)という設定につながっていくんですね。これは本作でキャラクターデザインを田中将賀氏に任せて、自身は背景画の作り込みに徹した新海監督自身もモチーフになっているのではないでしょうか。

・チラッと映る三葉さんの父の職歴は「民俗学者→神主→町長」。伝承(彗星の落下や「片割れどき」などの特徴的な方言)を調べに糸守町にやってきたのではないか。そこで三葉さんの母親(伝承の中心地である宮水神社の娘)と出会って結婚した(養子に入った)と。

・作中でも触れられたように、お祖母さんもお母さんも「入れ替わり」の経験者なのですね。だからこそ作中でお祖母さんと(義母や妻から何か聞いていた)父親だけが、「目の前の娘が別人と入れ替わっている」ということに気づくし、父は最後に(入れ替わっていない)三葉さんの説得に応じる。

 

・物語上の「入れ替わりの力」は三葉さん側(巫女側)だけが持っている(瀧くん側には特に異能の力は必要ない)という設定で成立可能。これはパラドックスになるが、電車の中で出会った2013年の瀧くんに「組紐」を渡すことでマーキングが完了したと考えられる。瀧くんと三葉さんの双方で「赤い組紐」を持つことが「入れ替わり」の発動条件のひとつか。

・お祖母さんも組紐で髪をまとめてましたね。

・2回目見るときに母親も赤い組紐を身に付けていたか確認したい。

・なんかスゲーたくさんメモ書いてるなぁ。わかりやすくてストレートなのに、それでも何か書きたくなる作品ってすばらしいですよね。

・「繭五郎の大火」、何か大きな意味がありそうな気がして気になってたんですが、特に見つけらませんでした。ぐぬぬ。古文書には隕石落下と「入れ替わりの力」のことが書かれていたんでしょうか。

 

・彗星(地球に近づくたびに二つに割れて片割れが激突する)も、組紐も、「出会い直し」の暗喩か。

・糸守で3年の時空間を超えて瀧くんと三葉さんが出会う時に、クレーターの周縁を走って回ってそこで会うのは、彗星と、古事記イザナミイザナギの国生み神話がモチーフ?(古事記によれば、二人で社の周りを回って出会い直して国産みする)やや強引な解釈か?

・この出会い直しが夕方、つまり「黄昏時」に起こると。

・なので日が落ちて夜になるとチャネリングが強制終了するということですね。

・奥寺先輩がいいぞー。作中では「大人」という設定なのにやや不安定なところが特にいいです。

・途中、勅使河原家の町長接待シーンで、隣室にいる勅使河原克彦くんが「腐敗の匂いがする」とつぶやきます。これは、三葉さんのかなり破滅的で犯罪的な避難作戦に勅使河原くんがすすんで協力する伏線なんですね。このまま田舎町で暮らしていく自分、町長にお酌し選挙協力を約束する父親の姿を自分に重ね、「このままああなっていいのか…」という葛藤が彼に犯罪的な避難計画へ踏み切らせる契機となったと。ああモラトリアム。

・勅使河原克彦くんは「葛藤を抱えているほうの男子」という役割があるんでしょうね。

・物語序盤、三葉さんは2013年の住人なのに2016年のスマホが楽々使えるあたりにやや違和感……と思ったんだけど、調べたら2013年ってiPhone5が出て1年くらいたってるんですね。なら使えるなー。案外進歩してないなスマホ

・誰もが「夢って起きたら忘れちゃうよね」だとか、「もしかしたら自分にも、出会った記憶をなくしただけの運命の相手がいるかもしれない」だとか、身近に感じられるテーマが盛り込まれている。

 

・新海監督自身が「本作のモチーフにした」と語る、小野小町の「思ひつつ 寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせばさめざらましを(愛しい人を思いながら眠りについたからだろうか、あの人が現れた夢を、夢だとわかっていれば目覚めたくなかったのに)」は古今和歌集に採られていますが、その古今集で上記の歌の次に並べられた小野小町の歌は「うたたねに 恋しき人を見てしより 夢てふものは頼みそめてき(ふいに落ちたうたた寝に恋しい人が出てきてしまい、それ以来はかない夢を頼るようになってしまった)」というものです。こちらも示唆的ですねーー。

 

・新海監督の前作『言の葉の庭』(2013年)でも万葉集の一首(とその返歌)がとても印象的に使われていましたね。返歌や類歌は和歌の広がり、深まりを担う醍醐味のひとつですな。

 

・立川シネシティの極上音響上映で見たせいか、音楽が最高。映画館を出てすぐサントラを購入しました。iTunesなら1900円。安っ! 主題歌4曲とも歌入りで入ってます。

・イヤホンで聴きながらこれ書いてます。最高。

・聴いてていま気づいた。曲順が物語順と沿っているため最初から順番に聴いてると映画を追体験できますな!

・失礼を承知で、エンドロールまでずっと主題歌を歌ってるのはBUMP OF CHIKENだと思ってました。ごめんなさい。

・しかしまあ…新海監督がどこかのインタビューで「震災の影響は大きい」と語っていたけども、東日本大震災以降、「突然襲ってくる天災で町民が全滅」というような異常で異様な事態が、私たちにとってリアリティを持って感じられるようになってしまったんだよなあ。

・そう考えると、私たちは「あの大災害」をリアリティを持って、それでも物語として消費できる段階に入っている、ということなのかもしれない(初代『君の名は』が東京大空襲を物語として消費できるようになった時期の作品だということも合わせて)。

・ともあれ『秒速5センチメートル』ファンによる、奥寺先輩が去っていくシーンでの「またか? またなのか?」感。

・それでも奥寺先輩がいいです。

・立川シネシティ極上音響上映万歳。

・本作全力推しです。私もまた見ます。ありがとう! とにかくありがとう!!

・本作を「見たほうがいいですよ」と薦めてくださった方々に感謝。

・この作品を気に入った方は、『時をかける少女』(細田守監督・2006年)もぜひ。似たテーマ、似たモチーフ、似た疾走感を、違うシナリオで楽しめます。

・いい映画は「また映画見たいな」って思わせてくれますよね。そうして未来へ「好奇心」を手渡していく力がある。

 

・本記事をアップロードしおえて2日後に寝ながら『君の名を。』を反芻していてハッと気づきました。瀧くんと三葉さんには「(少なくとも17歳時点で)母親がいない」という共通点があるんですね。これは視聴中は気づかなかったなー。

 

・「同じものを持っている」よりも「同じ欠落を抱えている」というほうが共感や連帯感を得やすい……というのは誰が書いてたんでしたっけ。ともあれこれは製作サイドが狙った「二人が短期間で恋に落ちても不自然ではない仕掛け」の一つなんでしょうねー。瀧くんのお母さんは離別なのか死別なのか、気になるところです。

 

・女しかいない宮水家と男所帯の立花家で入れ替わった新鮮さなんかも、二人のドキドキ感をドライブしたんだろうなぁ。

 

以上。

 

君の名は。』公式 http://www.kiminona.com/index.html

 

立川シネマシティ https://cinemacity.co.jp

いつかきっと行きたくなる、そんな時のための長崎二泊三日旅行ガイド

 熊本大分震災で、2016年5月以降の九州各地への旅行キャンセルが相次いでいるそうです。なんてこったい。そこでたまたま地震一週間前に長崎へ行き大満足だった私が、ここは一発旅レポでもと書きました!

 長崎最高。これを機会にぜひ皆様も!

 

 そんなわけで「いつかきっと行きたくなる、そんな時のための長崎二泊三日旅行ガイド」、以下よろしく。

※えらい長いので(写真含めてA4用紙15枚くらい)1日ごとに区切って読むのを推奨します

 

【長崎1日目】

 朝の9:15に長崎空港へ到着し、リムジンバスで長崎駅前のホテルに移動。荷物を預けていざ観光へ。

 長崎駅改札横にある「総合観光案内所」路面電車の一日乗車券(大人1名乗り放題で500円)を購入、以後移動は基本この路面電車と徒歩としました。ちなみにこの一日乗車券、名店やお土産屋さんの割引サービスも付いてたりして大変便利です。

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長崎は 路面電車の移動が便利で情緒もあって推奨です/©VTT Studio/ Shutterstock.com

 

 さてまず最初に向かった観光スポットは日本最古のアーチ型石橋「眼鏡橋」(1634年架橋。1502年架橋の天女橋(沖縄)は架橋時は琉球王国。川辺りまで石段で降りることができ、橋の裏側までじっくり眺めることができます。確かに造形として大変美しいんですが、石で積み上げられた堅牢な橋&たゆたゆと流れる川面の景観よりも、「TOKIOがこんなん作ってたな」となぜかTOKIOの評価が上がるスポット。運がいいと甲羅干ししてるカメに出会えます。

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黙子如定という中国から来たお坊さんが架けたそうです。TOKIOではなく

 (本エントリーをアップ後、Twitterにて「TOKIOに石橋作りを教えたのは長崎の人なんですよ」と教わりました。下記参照。さ、さすが長崎!)

tokio-jima.blog.so-net.ne.jp

 

 昼食はそこから徒歩2分の「きっちんせいじ」(名店「きっちんせいじ」さんは2017年12月30日に閉店しました。残念…)でトルコライスをいただきました。大人のお子様ランチですね。デブ殺し。うまし。一片の後悔なし。大量のマンガが積んであるマンガ喫茶風レストランですが、注文するとすぐ料理が来るためゆっくり読んでるヒマはありません。

 

 続いて向かったのは「亀山社中跡地&資料館」(リンク先、しばらくすると音が出ます)

 亀山社中はなぜあんなに急勾配な階段の上に建っているのか。あいつらこれ毎日登って通ってたんか。おい坂本お前だ。さすが幕末最強の意識高い系。いや展示は面白かったけど。龍馬が履いていたブーツが展示されています。けっこう今風。

 また、複製品ではありますが、「坂本龍馬暗殺時に飛び散った血痕が残る屏風」や「おりょうさんとの新婚旅行の様子を綴った、乙女姉さんに送った龍馬直筆の手紙」とかが間近で見られます。かなり字が汚い。いたよなこういう男子、という印象。

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 坂本龍馬の手紙。せっかちで筆まめだったんですね。「サカホコ」とか読めるのがすごい

 

 そこから龍馬像が飾られている「風頭公園」まではさらなる急勾配階段でした。階段の途中に「日本の夜明けを見届けろ」的なポジティブ名言を投げかける龍馬似顔絵付き看板がいくつも掲示されており、最初はのんきに励まされていたんですが、4枚目くらいからイラついてきます。 

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現代にいたら絶対FacebookやってIT会社起業してそう

 

 ほうほうのテイで辿り着きますが、前々からこいつみたいな金も権力もないコミュ力一発勝負な若者って苦手なんだよなと、坂本龍馬への心象がかなり変わります。お薦め。

  あとで地元の人に聞いたら、慣れてる人は頂上近辺までバスを使うそうです。「東京は平地ばっかりだから、地図見て近くだと思っちゃうんですよねーww」と爆笑されました。全部坂本が悪い。

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司馬遼太郎にかけられた洗脳がとけるくらいの坂でした

 

 その後に「長崎歴史文化博物館」へ。長崎県が10年前に80億円かけてオープンした大変気合いの入った博物館です。設計は黒川紀章氏で、再現された長崎奉行所セットや豪華で緻密な展示内容は圧巻。特におすすめは出口のところに座っている解説ボランティア(頼めばガイドしてくれます)と土日祝日に1日4回披露される寸劇です。

 

 小さな漁村だった長崎港が日本を代表する対外貿易港として歩みだしたのは、1570年本能寺の変の12年前)ポルトガル船が入港してからとなります。

 それ以前は近くの平戸港フランシスコ・ザビエルが上陸した港)のほうがよほど発展していましたが、その平戸港でポルトガル人死傷者が出る騒擾事件(宮ノ前事件)が起こったこと、当時長崎を統治していた藩主・大村純忠(日本初のキリシタン大名キリスト教の布教に熱心かつ財政上の理由から南蛮貿易の拡大を望んでいたこと、山に囲まれた立地条件ゆえ充分な開拓面積がなくその代わりに第三次産業を発展させていったことなどが影響しあい、長崎は急速に発展していきます。

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長崎と平戸の位置関係。だいたい長崎県の南端と北端

© 2015 Google Inc, used with permission. Google

 

 ただそれらの発展要因がのちの苛烈なキリスト教弾圧につながり、江戸期〜幕末の特殊な立ち位置から生まれた明治期における造船業と炭鉱業の隆盛、そして原爆投下へといたるという、まさにあざなえる縄のごとき街の記憶をボランティアさんが丁寧に解説してくれます。

 寸劇は大変素人くさくて(実際素人なので)微笑ましさ百万ボルトですが、ラストには踊り付きで『長崎ぶらぶら節』が楽しめます。

ぶらりぶらりというたもんだいちゅ♫

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単なる県立の博物館にはとても見えない豪華な作り。ここはぜひ行くべし

 

 続いては「浦上天主堂」へ。長崎は2015年に「明治日本の産業遺産」として世界遺産登録された施設がたくさんあるんですが、それとは別に「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」も世界遺産に登録してほしいと、ユネスコに申請を出しています。

 それについては後述しますが、この浦上天主堂はいわゆる「弾圧、禁教」とは一歩離れた施設で、どちらかといえば爆心地に近かった関係で「黒こげになったマリア像」を見に行くのがメインとなります。

 ブルーを基調としたステンドグラスが荘厳(教会内撮影禁止。残念)

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今でも毎週日曜日はミサやってます

 

 次は長崎に訪れた人類には訪問の義務がある「原爆資料館」

 豊富な写真・映像・文章・実物資料で構成された、世界でも有数の原子爆弾資料館です。そりゃそうだ。ここ長崎は現時点において、実戦で使用された直近の被爆地なわけですから。

 展示内容を見ていると、平和への祈りがふつふつと湧いてくる……なんてことは全然なくて、普通にアメリカに対する怒りがわいてきます。爆弾一発で7万4000人を殺すなんていうめちゃくちゃなことをしておいて、よくその後も原爆実験を続けられるなと。世界の核実験数約2000回のうち約半数はアメリカ合衆国が実施したものであり、今もって核保有数世界1位であるわけです。お前いまんとこ世界で唯一の核加爆国なんだぞと(そういう現代の核事情の展示も豊富なのです)

 ぶりぶりと苛立つながら資料館を出ると、野良猫さんがひなたぼっこをしながら鎮魂碑をじっと眺めていました。あぁ…猫もいっぱい犠牲になったんだろうなぁ……などと思ったら、わたしにだって苛立つ資格なんかないことに気づきました。ごめん。

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きみらのご先祖様もひどいめに遭ったよなぁ 

 

 資料館から徒歩15分、初めて生で見る「平和祈念像」は思いのほか迫力がありました。右手は原爆が落ちてきた空を指し「脅威」を、左手は水平に伸ばして「平和」を示す、というのは知っていたんですが、膝を寝かせた右足は「静」を表し「瞑想」を、膝を立てた左足は「動」を表して「救済」を示している、という解説は初見でした。

 静かに閉じられた目と全体の雄々しいフォルムは神像にも仏像にも見えて、その向こうに広がる青い空と白い雲が切ないほど綺麗でした。

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デカいとは知ってましたが、想像以上にデカかったです 

 

 歩きすぎてへろへろになりながら公園備え付けのエスカレーターを下り、路面電車でフォロワーさんにお薦めいただいた「吉宗(よっそう)」へ。

 生まれて初めてドンブリ一杯の茶碗蒸しをたいらげて(1リットルパックのヤクルトを飲んだような気分です)ホテルに戻るも、身体中バキバキでこのまま寝たら明日動けないと思い立ち、無料シャトルバスで「稲佐山温泉ふくの湯 長崎店(温泉健康ランド)」へ行き、露天風呂に浸かって(夜景がすごいです。必見)マッサージ受けて帰ってきていまこれ書いてます。

 

 明らかに旅程を詰め込みすぎました。死ぬ。就寝。

(※当レポートは現地でとったメモが元になっているので時折感情がほとばしりますが疲れているんだとお察しいただきご寛恕ください)

 

【長崎2日目】

 少し遅めで8:30起床。コーヒーを飲んだあと、朝食として長崎駅前にある「アミュプラザ長崎」で「まるなか本舗のハトシロール」と「岩崎本舗角煮まんじゅう」をいただく。うおぉぉーーうまいぞーーーーっ。いくらでも食べられます。長崎の人はこれを毎日食べられるのか。羨ましいけど危険では。いや本当うまいけど(食べ過ぎました)

 一服後に事前に申し込んでいた「軍艦島(端島)上陸ツアー」へ参加するため長崎港の常盤桟橋へ。

 軍艦島ツアー(クルーズ)は4つのツアー会社がそれぞれ午前と午後の2便を運行しており、施設見学料込みで大人1名4000〜4500円です。どの会社に申し込むかで「どんな船で島に向かうか」と「どれくらいの人数で島を廻るか」が変わります。簡単に言うと船が豪華だと一緒に回る人数が多くなってガイドさんの説明がやや聞きづらくなるかな、という印象。各公式サイトで比較できますので、じっくり考えて予約(必須)しましょう。なおトイレが混みます。ツアー前に行っておきましょう。

(上記リンク先は私が申し込んだ1回45名程度のタイプです。ちょっと船は小さいけどガイドさんの声がよく聞こえてちょうどいい感じでした)

 

 さてさて軍艦島は、島そのものももちろん興味深いのですが、そこに向かう途中に(陸上からはやや見づらい)三菱長崎造船所を海からじっくり見られるのが嬉しかったです。現役で稼働しているジャイアント・カンチレバークレーンや香焼工場の三菱100万tドック、そろばんドックなどなど、やはり咸臨丸から戦艦武蔵、海上自衛隊イージス艦まで製造・補修している港というのは、一見の価値があります。

 なので船では窓際の席がお薦め。集合時間の15分ほど早く桟橋に到着すれば窓際に座れますので、狙ってみてください。

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 船窓越しにドックが見える。これも大変お薦め(写真は100万tドック。見えづらいが左端に写る豪華客船が小舟に見えるくらいデカい)

 

 上陸前に島の周囲を船でぐるっと回ると、高波(台風上陸時には護岸壁を楽々と越える波が打ち寄せたそうです)が打ち寄せる西側岸壁には住宅用団地が立ち並び、内海向きの東側には採掘した石炭を保存する貯炭地があることがわかります。

 人間より石炭のほうが大事だったんですねえ。

 

 上陸して見学できるのは30分ほど。ツアーの添乗員さんが各見学ポイントで解説してくれます。軍艦島は今も日々風化が進んでおり、特に建物の劣化が激しく、次に来る時は7階建ての団地跡が6階建てになっているかもしれない、とのこと。この一回性・唯一性はロマンですね。 

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リアルでラピュタみたいです。文明の墓碑

 

 約3時間のツアーを終えて、昼食は新地中華街「江山楼」皿うどんを食す。うががーーうまーうまー。

 関東勢は「中華街」というと横浜のあれを想像すると思うのですが、規模としてはグッと小ぶりで、お土産を見なければ15分で回れます。屋台で「食べるミルクセーキ」を購入しつつブラついてみましょう。もう一杯ちゃんぽんが食べたくなります。危険。

 のちほど、江山楼の皿うどんとちゃんぽんは「通販」で購入できることを知りました。ダシが絶品です。ぜひ。

 

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店構えは大変立派ですが、店内は庶民的でした。スープが絶品

 

 以前募集した長崎の美味いもんを募集したら大盛況だった! - Togetterまとめも必見です。ぜひご参照ください。

 

 さあ次だ。元気出して行こう。続いて向かったのは「グラバー園」

 裏側から回るかたちになりますが、「グラバースカイロード」がお薦めです。スカイロードは、簡単に言うとゴンドラ的な斜めエレベーター。乗ってから気づきましたが、『ブラタモリ』で見たなこの絵面。グラバー園に向かう観光客だけでなく地域住民も使っているところに、長崎特有の鷹揚さを感じました。

 降りた先にあるベンチで、昨日に引き続きノラ猫さんがひなたぼっこしておりました。長崎に多い「尾曲がり猫」で、このタイプの尾を持つ猫は東南アジア原産であり、江戸期にオランダ東インド会社の商船がネズミ対策で乗船させたものが日本で広まった、という学説があります。きみのご先祖様はジャカルタから来たのかあ。などと猫に話しかけておりました。なでなで。

 

グラバー園」にもボランティアのツアーガイドさんがいて、頼めば各展示物の解説をしてくれます。こちらもお薦め。

 教科書で読んだ程度の知識だと、「トーマス・ブレーク・グラバー」ってえらく不思議な人物なんですよね。

 というのも、単なる武器商人かと思ったら土佐、薩摩、長州といった雄藩だけでなくほぼ同時期に幕府にも武器を流している。それだけでなく見込みのある若者を英国に留学させ、また造船、蒸気機関、製茶、製鉄、採炭などの産業技術開発を進め、ビール会社の立ち上げ(のちのキリンビールにも携わったりしている。

 これって凄いことですよ。軍事・教育・交通インフラ・重工業・エネルギー・飲料事業と、明治近代社会を支えるほとんどの産業の節目に立ち会っていることになる。一人でそんなことが可能なのか?

 

 ガイドと一緒にグラバー園を回ると、そこのところを説明してくれます。

 まず「グラバーの仕事」として伝えられている多くの仕事は、グラバー1人で成したわけではなく、「シンクタンクとしてのグラバー商会」の業績であったこと。

 そして時代は19世紀末、グラバーには当時いわゆる「パックスブリタニカ」を背景とした大英帝国の世界戦略とバックアップ(具体的には対露・対中政策の一環)があり、それこそが明治日本の近代化を押し進めた原動力であって(同じ役割をこの半世紀後、敗戦後復興→高度成長期においてアメリカが担っていますね)、さらにこの布石が1902年の第一次日英同盟へとつながっていくわけですな。

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日本人初のオペラ歌手、三浦環『蝶々夫人』を演じている像が印象的でした。そうか、『蝶々夫人』の舞台も長崎なんだなと(関連資料がグラバー園にあります)。写真右はグラバー夫人のツルさん。おかずクラブのゆいPさんに似ていたので思わず撮りました

 

 グラバー園の出口付近には「長崎伝統芸能館」があります。

 別名「くんち資料館」と呼ばれており、毎年10月初旬に開催される国の重要無形文化財長崎くんち」の歴史と概要についての資料館となります。お祭りとして大変盛大で、地元の皆さんだけでなく観光客にも大人気の祝祭ではあるんですが、「“くんち”はキリスト教の弾圧から庶民の目をそらすため、時の行政府が奨励してきたため発展した」というクールで深い分析がさらっとあったりしてお薦めです。

 

 グラバー園を出てゆるゆると坂道を下る途中のお土産物店にて、「ニューヨーク堂のカステラアイス」を購入。「バニラアイスをカステラで挟んだお菓子」という殺人的なコラボレーション。まあカステラでバニラアイスを挟んだんだなって味がします。美味しくないわけがない。

 

 続いて徒歩10分で「大浦天主堂」へ。

 よく知られているとおり、日本におけるキリスト教の歴史は1549年に長崎の平戸港へフランシスコ・ザビエルがたどり着いたところから始まります。それから大村純忠公による発展、天正遣欧使節派遣(1582年)を経て、豊臣秀吉バテレン追放令(1587年)発令から本格的な弾圧が始まり、徳川幕府の禁教令(1614年)で全国的に禁止令・処罰が強化されることになりました(信者を密告すると賞金が出たそうです。現在の10万〜40万円程度)

 このキリスト教徒の弾圧政策は幕末まで続き、江戸幕府が開国政策に踏み切り、長崎に外国人居留地を建設して、その居留地内に教会を設置することで終わりを告げるわけですが、その教会完成まもない1865年3月、まさにその居留地内に建てられた大浦天主堂にて、この日まで隠れキリシタンとして命がけで信仰を育んできた教徒たちが、初代大浦天主堂神父プティジャン神父に歩み寄り、「ここにいる私ども全員の心は、あなた様と同じでございます」と告白したわけです。

 神父、ぶったまげただろうなあ。なにせ250年間ですよ。

 

 この「信徒発見」キリスト教史に刻まれた大事件であり、前述のとおり現在長崎県(昨年認められた「明治日本の産業遺産」とは別に)長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として、ユネスコ世界文化遺産登録を申請しています。バチカンからも応援メッセージが届いていますが、さてどうなることでしょう。

 

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雰囲気抜群で、ここに通えばそりゃなんでも信じちゃうよなぁ…と実感できます。「信仰とは祈りそのものにある」ってこういう意味なんだなと 

 

 ここらあたりですでに尽きつつある体力を振り絞って「出島」へ。

 長崎の出島は高度成長期に周囲を埋め立ててしまっており、「港に突き出ている島」ではなくなってしまったんですが(囲いは一応残っている)、長崎県もさすがにまずいと思ったのか、周囲を掘って「出ている島」に戻すべく復興事業を進めているそうです。

 まあ確かに普通に門をくぐって「ここからが出島跡地です」と言われても、実感はいまいち湧きません。

 ただ出島跡地に入ってすぐに、その狭さには衝撃を受けます。

 出島の面積は3969坪(約1.5へクタール)、サッカーコート約2面ぶんの面積のなかに数十人が暮らして、年に1度来るか来ないかわからない母国からの船を待ち続ける在外公館なわけです。もちろんオランダ人は出島の外へ出ることは禁止。これ、緩やかな監獄だよな…ということが実感できます。

 中の展示資料はなかなか充実。出島を通じた砂糖貿易が盛んだったからこそ、長崎は洋菓子が発達し、カステラ作りが発展したなどの説明は、単純ですけどハッとしました。なるほどなー。

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入ってすぐに出島のミニチュアの模型があるんですが、狭苦しさがよくわかってよい展示です 

 

 いよいよヘロヘロになりつつベイサイドエリアにある「出島ワーフ」長崎県美術館の美しい建物を見ながらお茶、その後、「海鮮市場 長崎港」でまぐろ・鯛漬丼と鯨ベーコンをいただきました。うまままー。

 ホテルへ戻る前に大きい書店があると耳にしたので「みらい長崎COCOWALK」リンク先、音が出ます)に入っている宮脇書店さんへ。書籍数が豊富でフロア面積も大きい旗艦書店で、長崎の文化度の高さを実感しました。

 ここ、TOHOシネマズも入ってるんですね。うーむ、1日いられるなここ。

 

 大型書店、映画館、博物館、図書館(県立図書館も市立図書館も大きくてしっかりしてるんですよこれが!)と、「坂さえなければ老後にぜひ住みたいが、坂がないなら長崎とは言えないし…」などと、非常に大きなお世話な葛藤に苦しみました。

 

 本日も歩きまくったので「ふくの湯」へ。前日は気がつかなかった「塩サウナ」なるものを試してみました。サウナ内に塩が山盛りで積んであり、それを全身に塗りたくって汗を出すというなかなか変態的な施設。塩豚の燻製になった気分になれます。

 その後、足裏マッサージを受けてホテルへ。

 ところでマッサージを受けるとたまに足の裏をぐりぐり押されて「あ、ここ痛いの? 胃が悪いね。こっちは生殖器」というようなことを言う人がいるんですけど、あれって西洋医学的な裏付けってあるんですかね。「エロい人は髪の毛が伸びるのが早い」なみにふわっとした話な気がするんですけども。

 さておき、本日もメモをまとめて就寝。明日帰ります。

 

【長崎3日目】

 疲れすぎて夢見る隙もなく8時起床。また寝すぎた。昼過ぎの飛行機で羽田へ帰ります。

 昨日と同じく「アミュプラザ長崎」へ向かい、「トランドール」JR九州系のパン屋さん)で朝食。ミルクパン、カレーパン、野菜パンをいただく。おいしいなーおいしいなーーー。東京にも出店してくれまいか。

 

 さておき本日の観光予定は午前中のみ。残された数少ない旅程を果たすべく、路線バスで「長崎ペンギン水族館」へ。

 

 その名のとおりペンギンをメインに置いた水族館で、全18種類いるうち9種類のペンギン(計約180匹)が飼育されています。その数は日本一なんですけど、まとめて見ると、せっかちなやつ、乱暴なやつ、おとなしいやつ、お調子者なやつと、個体によってかなり性格が違うんだな、ということがよくわかります。

 同じなのはみんな水の中を飛ぶように美しく泳ぐところ。

 あと異様に人懐っこい。

 

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「ペンギンウォーク」というイベントに参加すると異様に近寄れます。つーか近すぎ

 

 ペンギンは南半球の限られた地域に生息したため、人間社会と接触したのがかなり新しい部類に入る生物です(近世以降)。そのため古い家紋や紋章にペンギンを使ったものはごく少ないですし、なにより「中世以前の、人類の狩猟期に接触機会が少なかったため人を恐れる習性がない」という説もあるそうです。

 

 そんななかでも日本は比較的古くからペンギンの飼育方法を確立しており、全世界の飼育されているペンギンのうち1/4が日本にいるともいわれています。

 個人的には平面構造式のぱっと見が似ている、というだけで名付けられた有機化合物「ペンギノン」が好きです。

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いいですよね。名付けがストレートで/ペンギノン-Wikipediaより

 

 ペンギンとのたわむれを堪能したあとバスで長崎駅前にもどって、アミュプラザ長崎にて「メトロ書店」さんに立ち寄り。先日立ち寄った宮脇書店さんと並び、長崎学のコーナーがありました。

 長崎学は日本の郷土文化史のなかでもやや特殊な位置づけで、そこらへんは直木賞受賞作『長崎ぶらぶら節』なかにし礼著・新潮社刊)を読むとよくわかります。

 読むと長崎に行きたくなる作品です。ぜひ。

 

 昼食は長崎空港にある「五島うどん つばき」にて「地獄炊き」をいただく。美味しいなあ。毎日言ってるけど美味しいなあ。

 今回は旅程の都合で五島列島には行けませんでした。ハウステンボスも島原も断念。ぐぬぬ、2泊3日では足りないなあ。それくらい魅力あふれる街でした。

 

 五島列島にはぜひ行きたかったんですよね。五島は山本二三さんの出身地だからです。

 これは『くちびるに歌を』中田永一著・小学館刊)という青春小説にあるエピソードなんですが、『天空の城ラピュタ』宮崎駿監督作品/1986)『時をかける少女』細田守監督作品/2006)を担当したアニメ美術監督・背景画家の山本二三さんは長崎県五島市出身なんですよね。

ラピュタ』や『時かけ』といえば数あるアニメ作品のなかでも「青い空と白い雲」が印象的な作品です。私たちがなにげなく「美しいな」と思って見ていた空と雲は、それを描いた山本さんが幼い頃に見た五島列島の空や雲と同じであるかもしれず、そうであるならその景色を実際に見に行きたい、その下で(パズーや真琴のように)寝っ転がって見上げてみたいとずっと思っています。

 なんとかぜひ、行きます。

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 いやーなんつーか、いいですよねー、この空と雲。

『天空の城ラピュタ』『時をかける少女』各DVD版ジャケット)

 

 あ、最後に、本エントリ冒頭に紹介したJR長崎駅にある総合観光案内所路面電車の一日乗車券とかをここで買える)の対応力がすばらしかったことを付記しておきます。JRの職員が窓口対応にあたっているのだと思うんですが、長崎市内って路面電車、路線バス、電車、観光ツアーバス、タクシーと各種交通機関入り組んでいて、「この観光地からこの観光地への移動はどういうルートが望ましいか」という行程設計が異様に複雑なんですね。

 そんななかで最適・最安なルートを次から次に訪れる旅行者(英語、中国語でも対応していた)に向けて短時間で伝えていて、訪れるたびに感動しました。

 いやー最近よく「観光需要を盛り上げる」というじゃないですか。でもそれって観光資源を見つけてきたり箱ものを整備するだけじゃなくて、こういう「対応力のある人材をきっちり育成して厚遇する」っていうのが大切なんだなと、古くから観光を自治体の柱にしてきた長崎に来て実感したのでした。はい。

 

 以下、長崎空港のお土産コーナーにて購入したもの一覧です。

 びわゼリー、一口餃子、からすみ、ハトシロールとチャンポン天、練り物詰め合わせ、焼酎お試しセット、皿うどん角煮まんじゅう、よりより。カステラは和泉屋、長崎本舗、松翁軒福砂屋のものを一本ずつ。

 うーん、全部食えるのかこれ。

 宅急便で送ってもらい、帰途に。長崎、やっぱり最高でした。

 

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